室蘭の就職先は本当に少ないのか

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 先日、北海道新聞に「室蘭の転出超過720人、道内2番目の多さ 20代前半流出、就職先の少なさ影響か」というタイトルの記事が載りました。

 確かに室蘭の人口減の速度はかなり早く、毎年千人以上のペースで人口が減っています。しかし、「就職先の少なさ」が原因ではないのでは? と感じます。

 よく、地方に移住した室蘭出身者等から「室蘭に帰りたくても仕事がない」と言われたり、「若者が室蘭に残ろうにも、仕事がない」と言われたりしてます。でも、仕事がないというのは本当でしょうか?

 ハローワーク室蘭が毎月出している統計情報「ハローワーク情報むろらん」によると、ハローワーク室蘭管内の2022年12月の有効求人倍率は1.61倍です。

 同じ期間の道内平均は1.17倍全国平均でも1.31倍ですので、室蘭の有効求人倍率は全国平均よりも高いです。
 しかも、僕の記憶が正しければ、この状態がもう何年も、コロナ前から続いていますし、建設業を中心に「ハローワークに求人を出してるが、もう何年も誰も来なくて困っている」といった声をよく聞きます。

 ハローワークの統計を見ると、おおまかな職種ごとの倍率も載ってます。
 この中で特に倍率が高いのが「建設・採掘の職業」の9.55倍。382人分の求人に対し、求職者が40人しかいらず、求職者1人あたり、10社近い会社が奪い合っている状況です。
 他にも「生産工程の職業」「保安の職業」4.00倍、「サービスの職業」2.73倍と高い状態になってます。
 一方で、倍率の低い職業が「事務的職業」の0.56倍。276人分の求人に対して491人の求職者がいる状態で、1つの椅子を2人の求職者が取り合ってる状態です。他に倍率の低い業者だと「管理的職業」ですが、これは2人の求人に対し3人の求職者なので、そこまで全体への影響はありません。

 こうして見ると、求職者がそもそも圧倒的に少ないのと、その中の結構な割合が「事務的職業」を希望しており、逆に製造業建設業敬遠されて求職者が少ないことが見てとれます。

 一言でまとめると、室蘭に仕事はあります。
 若い人にしかないだろうと思われがちですが、ハローワークの資料を見ると、45-54歳、55歳以上の年齢層にもかなりの求人があり、全体の半分近くを占めます。

 それを踏まえて、何が問題なのかを考察しますが、おそらく働きたい人の希望する職業と、求人を出している企業の求める職種がうまくマッチングしていないということです。
 だから、「事務的仕事」をしたい人は、室蘭では見つけられずに、札幌や東京といった都会に出ていってしまいます。
 そして、業界的にきついイメージのある建設業や製造業は敬遠され、人が来ない。

 これまで室蘭では、後者への対策として、「現場仕事の魅力を伝える」「現場で活躍する女性を増やす」といった対策が取られてきました。ですが、それだけでは足りない。
 前者へのアプローチはあまりなく、むしろ企業誘致といえば、製造業や建設業ばかり誘致してきました。これは製造業・建設業の求人は増やしても、求職者は増えない。むしろ業界の人手不足感をますます高めてしまう。

 必要なのは、前者への対策として「事務的職業」を求める企業を誘致することだと思ってます。
 例えば都市圏のIT関連企業の開発拠点を室蘭に誘致するとか、コールセンターやデータセンターのような施設を誘致するとか。あるいは、地道ではありますけど、観光業に本腰を入れることで、商業や飲食業が盛んになり、そこで事務的な仕事や販売の仕事、サービスの仕事なども生まれる可能性がある。

 ちなみに、「室蘭市人口ビジョン」に掲載されている資料を見ると、転出先自治体で一番多いのは札幌市で、これは「職業的理由での転出」がほとんどでしょうが、二番目は登別市で、年間280人近く転出してます。これはおそらく、大部分が、職業は変えずに住所だけを移してます。となると、その原因は「就職先の少なさ」ではない。結婚や出産などのライフステージの変化に伴って、室蘭ではなく登別に転居してしまう人がこれだけいる、ということです。この人たちが室蘭に踏み止まってくれたら、室蘭の人口減少スピードはかなり落ちます。そのカギになるのは「住みやすいか」「子育てしやすいか」です。

 製造業・建設業に対する職業的アプローチがダメだとは言いませんが、「それだけではダメ」とは言いたいところですね。「室蘭には仕事が無いから」が、ただの思考停止でしかないのは明らかですので、このあたりについて、今年選挙のある室蘭市長候補3人はどんな処方箋を書くのか。見てみたいですね。